MC.sirafu
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─ファースト・アルバム『片想インダハウス』から、早3年。ついにセカンド・アルバム『QUIERO V.I.P.』が出ます!

MC.sirafu でも、この歳でまだセカンドってやばいですよね(笑)。もう重鎮くらいの歳なのに!

─待ちましたわ~。

MC.sirafu シングル「山の方」出したのが一昨年で、去年ってなにも出してないですよね。だから、次に作る音源は、タイミングとしてはアルバムだよなとは思ってました。別に曲が溜まってたわけでもないけど、「そろそろ動き出さないとな」と思ってやってましたね。

─想像してたよりも新曲が多くて、びっくりしました。

MC.sirafu 半分くらい新曲ですよね。あと、最近ファンになった人には新曲と思われるかもしれないけど、超古い曲もありますしね。「ダメージルンバ」とかがそう。

─「ダメージルンバ」は2004年にあった片想いの初ライヴで、もう演奏されてる曲。

MC.sirafu やってますね。あのとき「すべてを」もやってるし。

─「V.I.P.」なんかはライヴでも人気だし、今回はきっと入るだろうなとは思ってました。

MC.sirafu 片想いって、昔の曲は7インチ・シングルで出すつもりで作ってたんですよね。昔の洋楽の人の「いい曲できたから7インチで切ろう!」みたいなA面感。こういう曲がシングルであったらかっこいいなって感じなんですよ。「V.I.P.」は、そういう意味でのシングルのA面だったんですよ。だから、もともとアルバムに入る感じじゃなかった。ちょっと飛び道具すぎるかなと思ってたし。

─飛び道具!

MC.sirafu ただ、アルバム入ってないのにライヴではよくやってるからお客さんもこの曲よく知ってて、「あれ入らないんですか?」って聞かれることも多くて。そういう需要に応えるというか、自分たちの活動面でも今の時代のタイミングに合ってきた部分があって。それで、今回は入れようと。

─「棒きれなどふりまわしてもしかたのないことでしょう」(元メンバーの井手リョウ曲のカヴァー)は、もはやライヴ終盤の大定番ってくらいよくやってる曲ですけど、逆に「My Favorite Things」や「フェノミナン」は最近そんなにやってないですよね。

MC.sirafu 「マイフェバ」は、昔は結構やってたし、好きな曲ですよ。ちょうどceroと絡み出して、「踊る理由」とかができたあたりに作った曲ですね。あだちが昔、某区民センターでイベントやってた頃に、はしもっちゃん(橋本翼/cero)がドリンクでハイボールを出してて。あの「美しい夜景でハイボール飲んだ」って歌詞は、あのときのはしもっちゃんのことなんですよ。

─「フェノミナン」をアルバムの最後にしたのは?

MC.sirafu 決めたのは、ぼくですね。これはシンと伴瀬の曲なんですよ。ぼくが気づかないうちにふたりで作ってた曲。「ハピネス」っていう「片想い最後の大曲」とも呼ばれる曲が候補にはあったんですけど、ちょっと重いなと思って。さらっとテンポよく聴けるアルバムにしたかったから、これにしました。これ、ちょっとアメリカンじゃないですか。

─グッドタイムというか。

MC.sirafu この感じがアルバムの最後にはまるんじゃないかと思って。

─今回、どうやって選曲は決めたんですか?

MC.sirafu それはもう、足繁く御谷湯に通って、番台にいるシンと相談して(笑)。みんなで話し合いもしつつ、結局はぼくとシンで決めました。

─昔の曲も気になるけど、やっぱりこのアルバムで度肝を抜かれたのは、新曲の良さなんですよ。それこそ一曲目の「片想インダDISCO」! ライヴでも今までに一回もやってない、誰も知らない新曲が一曲目。正直不安だったけど、イントロのエレピとホーンが鳴って、ドラムが入ってきたときに「やった!」と思いました。

MC.sirafu でも、できあがるまでは、ぼく以外の全員が不安がってましたけどね(笑)

─本当に?

MC.sirafu 角張さんも、ツボイさん(Illicit tsuboi)さんも「大丈夫かなー?」って言ってました。でも、ぼくだけはなんだか確信があったんですよ。ライヴでやってない曲だから、みんな首をひねっただけで、ああいうことしたいってアイデアは昔からあったんですよ。「V.I.P.」とかも、もし今「新曲だ!」って言ってライヴでやったら、みんな首ひねったと思いますよ(笑)。だけど、あの曲もやってくうちに意味合いができてきたし。

─ここ最近の片想いだと、ライヴで「新曲です」って言ってやる曲って、わりと“いい曲”な感じが多かったじゃないですか。それもあって、びっくりしたのかも。でも、逆に言うと、それこそ昔の片想いって、お客さんの予想を裏切る痛快さがあったバンドだったはずと想像させる部分もあって。そういう意味では、新しいけど懐かしいというか。

MC.sirafu そういう昔の感じができたのかもしれないですね。この歳にして、バンドの初期衝動を感じたというか、曲を作る楽しさというか。おっさんたちが集まってこういう作業することって、あんまりないですからね。

─「片想インダDISCO」は、MC.sirafu楽曲?

MC.sirafu なんかそのへんが今回のおもしろいとこなんですよ。曲の作り方も特殊になってきてて、曲書いて、コード付けて、紙に書いて、「はい、できました!」ってみんなに渡す感じがあんまりなかった。「片想インダDISCO」を作ったという意味では、最初はイッシーの家で一緒にデモを作ったけど……、でも、できていくうちに誰が何をしたのか、あんまり覚えてない。最初はイッシーの家でデモを作ったけど、誰がどういう部分を考えたかというより、そこにイッシーがいるだけで、片想い感が出てくるんですよ。イッシーの空気感があって、チョイスとか、判断とかが決まる。たぶん、それはそこにイッシーがいなくちゃできないことで、そこまで含めて作曲と思うんですよ。

─イッシーの存在そのものが作曲!

MC.sirafu そうそうそう。だから、なかなか特殊なバンドではあります。

─「片想インダDISCO」は聴けば聴くほど最高で、ベタな感じにも思えるんだけど、つくづく思うのは、やっぱりこういう曲はほかのバンドではなかなか、いや、ぜったいに体験できないということなんですよ。

MC.sirafu あれは、市民楽団のブラスバンドが勘違いしてディスコやってるイメージなんですよ。

─それをあえて一曲目に持ってきたという。

MC.sirafu あの曲、最後にできたんですよ。だけど、どうしても一曲目はあれにしたいと思ったんです。ファーストは「管に寄せて」が一曲目だったでしょ。あの感じもちょっとある。曲なんだけど曲じゃない感覚や、構築されてかたちが決まってるものが必ずしも大切じゃないというのは、片想いのライヴもそうじゃないですか。ひとつにパッケージができないというか、しっかり提示しないということをやりたかったのかもしれないですね。

─「しっかり提示しない」ということをやりたい。なるほどね! とはいえ、アルバムとしては、ここから始まって、前半のかなり踊れてしまう曲が並んでます。こういう踊らせるようなコンセプトは、あったんですか?

MC.sirafu 片想いってああいうダンス・ミュージック的なアプローチがもともとは少ないバンドなんですけど、踊れるアルバムっていうのはずっとやりたかったんですよ。ただ、片想いとして見せなきゃいけない部分との接点も考えつつで。まあ、片想いはどの曲もダンス・ミュージックのつもりでやってるんですけどね。

─思い返せば、ファーストは、やっぱり一枚目なだけあって、どの曲にも「これを聴かせたい」という気配がわりと強くあって。

MC.sirafu まあ、あれはベスト盤でしたよね。

─それまでの10年間の代表曲が並んでいて。もちろんどの曲も最高なんですけど、あれがベスト盤だとしたら、そういう意味では今回の『Quiero V.I.P.』は、オリジナル・アルバムという感じがすごくします。

MC.sirafu やっぱり更新していかないと、バンドって死んじゃうんですよ。マジで。

─この3年間、片想いとしての活動があんまり頻繁ではなかったにもかかわらず、演奏力というか結束力というか、バンドとしての集中力が上がった気がします。

MC.sirafu あいつら、わりと手練れですからね。そういうポテンシャルの高さに意外と気がついてなかったんですよ。「そう言えば、伴瀬とかあだちとか曲作れるんだよな」とあらためて思ったという(笑)。伴瀬の書いた「感じ方」とかすばらしいですよね。

─新曲だとめちゃめちゃかっこいいラップ曲「Funky Initiations」や、ラテンでエキゾチックな「VIVA! MIragro」も、ライヴではやってない曲ですよね。特に「VIVA! Miragro」の構成は、なんかすごい。ぜんぜん展開が読めない曲です。これはだれの曲?

MC.sirafu これ、やばいですよね。もともとはあだちに曲を頼んだら、最初のテーマだけ作ってきて、あとは「違う曲にしたい」って言ってうちらに投げやがって(笑)。それで、なんとかうちらで曲にしたんですけど、結果、これぞ片想いという曲になりました。

─ほかにも新曲では、ライヴではすでによくやってた「君の窓」、『片想インダハウス』のレコ発で聴いてたオラリー曲「街の景色」とかもあるんですけど、やっぱり気になるのは「Party Kills Me(パーティーに殺される!)」です。これは、今年の1月に青山CAYで一回だけライヴでも新曲としてやってました。

MC.sirafu あれ以来、ライヴやってないですからね(笑)

─やったときに、結構客席がざわっとなった記憶があります。いつになく、はっきりした主張のある感じがした曲だったからかな。

MC.sirafu やっぱり片想いは「踊る理由」の存在ってすごく大きいんですよ。あの曲によってお客さんに門戸が開かれたという感じがある。敷居があるのかないのか、楽しいのかせつないのかわからない感じとか、片想い感のぜんぶが表れてる。でも、前回アルバムを出したことで、リスナーの幅も広がったりして、お客さんの片想いに対する評価もちょっと変わってきて。パーティー・バンドというか、楽しめてナンボみたいな部分があって、お客さんのそういう要求や期待のほうがこの3年間で自分たちよりも上回ってきた感じがあったんですよ。

─「今夜も楽しませてくれるんですよね?」という無言の要求に対する違和感というか?

MC.sirafu ただ、そこで本来の片想いのバランスを崩したら、たぶん片想いが片想いじゃなくなってしまう。「なんでこんな盛り上がる曲ばっかりやるんだ?」みたいな気持ちは、メンバーにもあったと思うんですよ。「じゃあ、次に片想いはどういう方向に行けばいいのか?」っていうのを、ぼくは結構悩みました。片想いの活動スタンスのなかでなにができるのかっていうことを照らし合わせている間に3年かかったというのは、もしかしたらあるのかもしれない。だから、「踊る理由」以降にどういう曲を作ればいいかということを悩んでた末に、あの曲ができたのは大きいです。この先の道筋を照らすような曲だと思うんですよ。

─全員のキャラクターが織り込まれている曲で、とにかくいろんな感情が湧き出てきて、すごく耳に残ります。

MC.sirafu わりと言いたいことを言った曲なんです。ここ数年、音楽の現状が結構変わって、消費のスピードとかお客さんの飽きっぽさとかもすごく変わってる。そのなかで、片想いみたいな超ローペースのバンドになにができるかを思うことがすごくあって。CAYでやったときも、東京でひさびさのライヴだったし、リリースもないのに、みんな来てくれたじゃないですか。それはやっぱり片想いのライヴに現場感があるからだと思ってて。片想いのライヴって、たぶん、ひとりで来てる子とかもいるし、みんなで「ウェーイ」って楽しみ方を共有する感じでもない。でも、それぞれの向き合いかたで現場を共有するというのが本当に貴重で、それこそ真実だなと思ってるんで、それをあたらしいパーティー感として曲にしたくなったんです。もともと、ぼくも20代のころ、ムードマンのパーティーとかにひとりで行ってたし。

─そう言ってましたね。

MC.sirafu クラブの暗い隅っこでDJをひとりで聴いてたりして。でも、ぼくのなかの原体験ってそれなんですよ。「歌え! 騒げ! 飲め!」みたいなパーティー感にはぜんぜんなじめなくて。ぼくにとってはひとりでDJ聴いてるのもすばらしいパーティー感だし、いったい誰が見てたんだ!っていうハナタラシのライヴとかでも伝説になったりするじゃないですか。やっぱり現場で起こってた真実というのがパーティー感だと思ってて、それをあの曲では提示できたんじゃないかな。

─かなり思いを込めて書いた曲なんですね。

MC.sirafu そうですね。サビの「音楽やめてもいいよ」とかは、エモいメッセージでもなんでもなく、ただの言葉なんですけど。

─そうストレートにとらえる人もいるだろうけど。

MC.sirafu そこは危険を承知で、そこまでやんないと伝わんないこともあるんで。ただ、あれをどういうふうに歌うかはすごく悩んだんですよ。みんなで歌うのか、ひとりで歌うのか。すげえおもしろいのは、伴瀬があのフレーズ歌うのをいやがったんですよ。「“音楽やめてもいい”なんて歌えない」って。それ、すげえ熱いなと思って。

─伴瀬くんらしい。

MC.sirafu そういうばらばらなメンバーと共存しているってことが、この曲の意味をすげえ表してるなと思いましたね。だから、「Party Kills Me(パーティーに殺される!)」は、曲としては自分には手応えがあります。だけど、どういうふうにリスナーに響いていくかは読めない。でも、それもおもしろさなんですよ。

─もともと片想いって予定調和とは真逆なバンドだと思うんです。だから、このセカンドは新曲が多いにもかかわらず、そういう片想いの正体みたいなものがむしろ濃厚に出てる。バンドとして更新もされてるのが最高ですね。

MC.sirafu 昔は、ぼくがバンドをわりと仕切っている感じもあったんですけど、今はそれぞれの決定権があるようでないような感じになってきてますね。去年ぐらいからみんなの感覚がほぐれてきたというか、また片想いを楽しみだしてるんですよ。今、片想いは最高に楽しい。みんなが自分の生活との折り合いを見つけた感じですね。こういうバランスで成り立ってるバンドって、本当にいないと思います。

─生活と音楽が一緒にあることの心地よさ、みたいなことは最近、いろんな場所でもよく使われる言葉だけど。

MC.sirafu まあ「生活」「生活」って、あんまり言いたくないんですよ。生活と音楽が一緒にあるなんて当たり前のことだし。「じゃあ、みんなバンドやればいいじゃん」って思います(笑)。あと、音楽が拠り所になればいいってとらえ方も、ちょっと違うと思ってて。音楽を作るという衝動の楽しさは戻ってきたけど、歳をとってくるとレスポンスというのも重要で、やっぱりお客さんが来てくれてナンボなんですよ。ぼくたちは音楽だけを拠り所にしてるわけではなく、やっぱりお客さんが来てくれて、そこですごくいい現場が作れてるということを拠り所にしてる。お客さんに救われてるんですよ。だから「ぼくたちじゃなく、あなたたちがV.I.P.なんだよ」ということを言いたくて、それで「V.I.P.」を今回アルバムに入れたってのもあるんです。ぜんぜんそんな意図はなく作った曲だけど、今のモードに入ってきたんです。

─アルバム・タイトルにも「V.I.P.」入ってますし。

MC.sirafu アルバム・タイトルはみんなで考えたんですよ。いろいろ悩みましたけど、片想いの提示する新たなパーティー感を表したくて、これになりました。

─スペイン語の「Quiero」は「愛してる」だけど、日本語だと「消えろ」とも読めるというダブルミーニングが片想いらしさ。

MC.sirafu キエるマキュウで、ツボイさんにも引っかかってるし(笑)。

─本当だ! いいオチ(笑)。では、最後にひとつ。これ、みんなに聞こうと思ってるんですが、今回、自分的に一番手応えがあった曲を教えてください。

MC.sirafu 「片想インダDISCO」ですね、笑

─即答!

MC.sirafu 最高だなと思ってます!

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