skirt CALL

2016.4.20 on sale

KAKUBARHYTHM
DDCK-1045 

skirt CALL

※illustration:久野遥子

スカート 3rd Album“CALL”
4月20日発売 / DDCK-1045 
価格:2,600円(税込)

01.ワルツがきこえる / 02.CALL / 03.いい夜 / 04.暗礁 
05.どうしてこんなに晴れているのに / 06.アンダーカレント
07.ストーリーテラーになりたい / 08.想い(はどうだろうか) 
09.ひびよひばりよ / 10.回想 / 11.はじまるならば / 12.シリウス

※Recording engineer:葛西敏彦
※Mastering engineer: 前田康二
※Art Direction&Design:森敬太

初回特典
①タワーレコード全店(オンライン含む):デモ・CD「いつかの手紙」
②HMV 全店(オンライン含む):ラジオのカクバリズム(ウェルカム・スカート編)
③DISK UNION:スペシャル・ステッカー付き
④JET SET : 「男の60分」CDR
⑤COCONUTS DISK : スペシャル・バッチ

初回特典

music video

soundcloud

live info

5月27日(金) 渋谷WWW
『スカート“CALL”発売記念ワンマンライブ』

OPEN:18:30 / START:19:30
TICKET 前売り 3,000円  / 当日 3,500円

出演:スカート
DJ:臼山田洋オーケストラ

チケット:プレイガイド:3月26日一般発売開始

▼チケットぴあ 【Pコード:294-617】
http://t.pia.jp/
※電話予約あり:0570-02-9999

▼ローソンチケット 【Lコード:72442】
http://l-tike.com/
※電話予約なし

▼e+ 
【チケット購入ページへのリンク用URL】
※3/25(金)0:00公開
■購入ページURL(パソコン/スマートフォン/携帯共通)
http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002186279P0030001

6月17日(金)@心斎橋CONPASS
open18:30 / start 19:00 / ticket 3000円(ドリンク代別)
出演:スカート、柴田聡子
ぴあ:(P:295-790)、ローソン(L:56805)、E+
4月23日発売
info:SMASH WEST:06-6535-5569

6月19日(日)@名古屋VIO
open17:30 / start 18:00 / ticket 3000円(ドリンク代別)
出演:スカート、曽我部恵一
4月30日発売
ぴあ:(P:296-643)、ローソン(L:42891)、E+
info:ジェイルハウス:052-936-6041

trailer

instore event

2016年4月19日(火)21:00〜
COCONUTS DISK 吉祥寺店

スカート『CALL』発売記念ミニライブ&サイン会
インストア当日アルバムを購入者には通常特典のスペシャル・バッチに加えて、
澤マン特製ステッカーをプレゼントします(笑)!

2015年5月14日(土) 15:00~
タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース

スカート『CALL』発売記念ミニライブ&サイン会

2016年5月15日(日)14:00〜
タワーレコード京都店

スカート『CALL』発売記念ミニライブ&サイン会

2016年5月16日(月)19:30〜
タワーレコード難波店 5Fイベントスペース

スカート『CALL』発売記念ミニライブ&サイン会

まだまだ随時追加予定あり
詳細はこちら

interview

前編 (4.13公開)   後編 (4.20公開)

 スカート、すなわち澤部渡と知り合ったのは2011年だったと思う。今も澤部が続けている個人ブログ「幻燈日記帳」をなにかのきっかけで覗き、スカートのファースト・アルバム『エス・オー・エス』に興味を持った。決定打になったのは、ココナッツディスク吉祥寺店のブログで紹介されていた「ハル」のMV(澤部渡監督、岩淵弘樹撮影、編集)を見たこと。その衝撃は大きかった。それまでにブログの文章を読んで悶々とした若きポップ・フリークの苦悩に共感したり、ときどき公開される写真を見て「あー、太ってんなー」と笑ったりしていたのだが、「ハル」には本当におどろいたのだ。いい曲だった。そして、スカートとしてひとり立つその姿と音楽が完全に一致してた。翌日、ぼくは『エス・オー・エス』を買いに行ったのだった。
 今すぐスカートを聴かないと気が変になりそう。
 あのとき、ぼくはそう思っていた。
 それからほどなくして、渋谷O-Nestで、客としてライヴを見に来ていた澤部くんとはじめて会った。「やあやあどうもどうもはじめまして」と、初対面なのにすでにずいぶん昔から知っていたような、まるで「はじめまして」感のないあいさつだったことを妙に覚えている。その場で『エス・オー・エス』を聴いていることを伝えた。その場に角張くんもいたので、あれはもしかしてceroのライヴの日だったかもしれない。確か、あの夜に澤部くんと角張くんがはじめて会ったことがきっかけで、スカートは2011年の下北沢インディーファンクラブ(会場はDaisyBar)に出演することになったはず。
 それから5年、フル・アルバム『エス・オー・エス』『ひみつ』、ミニ・アルバム『ストーリー』『サイダーの庭』に加え、数々のデモ音源CD-Rやライヴ盤を自身のレーベル、カチュカ・サウンズからアウトプットし、次々と名曲を生み出してきたスカートは、今やインディー・シーンのみならず、先輩ミュージシャンからも一目も二目も置かれる存在になった。そのタイミングでのカクバリズムとの合流は、いろんな意味でドキドキさせられるニュースだと思う。
 リリースとしては2014年の12インチ・シングル『シリウス』が初のカクバリズム作品だが、フル・アルバムとしては約3年ぶりとなるこのサード・アルバム『CALL』に表れているのは、スカートとカクバリズムがたどり着いた「ようやく」なのか、それともこれから始まる新しい「いよいよ」なのか。スカート澤部渡の今感じてることを聞いてみる。

text by : 松永良平

前編

──ニュー・アルバム『CALL』の際立った良さっていろんな場面場面で感じるんですけど、やっぱりひとつ最初に言っておきたいのは、歌の良さなんです。これまでのスカートの、どのアルバムより歌が前に出ている。

澤部 今までは意識的に引っ込めてたことが多かったからですね。

──歌の話もそうですけど、今回、カクバリズムからこうしてフル・アルバムを出すにあたって、自分なりに変わることを意識していたんですか?

澤部 いや、じつはあんまり変えようとは思ってなかったです。今までできなかったことはやるけれど、今すぐ変えるときじゃないかもなと思ってました。急に変えても、お客さんも、自分の体も、自分の思想もついてこないだろうという気がしてたので、むしろ今までやっていたことをしっかりと見せるほうが重要なのかなと。

──つまり、「今までやってきたこと」を、以前はしてなかったやり方でしっかり見せるという意味だったとしたら、僕は今回それはやっぱり、澤部くんの歌だと思ってますけどね。一曲目の「ワルツがきこえる」には、歌い出し、そしてストリングスが入ってくる瞬間と、鳥肌が立つくらいすごく感動したんです。

澤部 ありがとうございます!

──その感動っていうのが、これまでのスカートとすごく違うってわけじゃないんですけど、たとえば「ワルツがきこえる」のワルツは、じゃあどこから聞こえてくるのかって思うときに、澤部くんがいる“今、ここ”からなんだって感じられる。どこかで誰かが歌ってるワルツがはるか遠くから聞こえるって歌詞ではあるんだけど、そのなかで、「今ワルツを歌っている僕の声が聞こえるでしょう?」っていう問いかけになっているというか。それってポップスとしてすごく大事なことだと思うんです。

澤部 歌を前に出すことによって、物語の語り手としての役割はしっかり前に出た感じはあります。それに、「ワルツがきこえる」が一曲目というのは、結構早くから決めていました。

──こういうオープニングの感じで思い出すのは、やっぱりファースト・アルバム『エス・オー・エス』の一曲目「ハル」ですよね。

澤部 「おばけのピアノ」(セカンド・アルバム『ひみつ』の一曲目)っぽくもありますけどね。

──でも、サイズ感とか、はかなさの表現という意味でも「ハル」に近いんです。はかなさだけじゃなく、なんらかの決意が秘められてる感じがあるじゃないですか。それもあって、『エス・オー・エス』からぐるっと一周してきたひと区切り感がつのるのかもしれない。

澤部 そうですね。

──音の質感としては、ポール・マッカートニーの『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』(2005年)を意識したという話も聞きましたけど。

澤部 ポールのあのアルバムもすごく意識しましたね。じつは、もともとはコリン・ブランストーンの『一年間』(1970年)と、トッド・ラングレンの『サムシング/エニンシング?』(1972年)の合いの子みたいなアルバムにしたいと思ってたんですけど、そんな時期にあのポールのアルバムを聴いて、「やりたかったのはこれじゃないか?」って思ったんです。コリンやトッドのアルバムについては「僕もそろそろああいう作品を作らねば」という焦りで言ってた部分もあるんです(笑)。今のモードは、むしろそれより前の『ラント』(1970年)とか『バラッド・オブ・トッド・ラングレン』(1971年)なんですけどね。

──『サムシング/エニンシング?』は多重録音とバンド・サウンドの両方があって、やりたいことを突き詰めてみた感じがある2枚組の大作ですけど、スカートもそういういろんなタイプの作風が入り混じってもいいと思ったとか?

澤部 そういう感じもあるし、なにか決定的にいい曲を書かなきゃという気持ちがありました。

──それが『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』を聴いたことで、ちょっと変化した?

澤部 単純に、あのアルバムの密室感もあるんだけど、しっかりと窓は開いてて、陽も射してるという、その感じに影響されましたね。ひとりで宅録やってるのにこれだけ開放感が備わっているというのは珍しいじゃないですか。

──確かに、密室ぽいけど開かれている、というのは澤部くんの感覚に通じるものはあるかもしれない。ポールも宅録的な発想をしてるけど、それをバンドでやるのが好きっていうところがあるし。

澤部 まあ、でも結局、理屈じゃない部分でも、あのアルバムには共感したんですよ。聴いたのはぜんぜんリアルタイムじゃなくて去年ですけど、なんとなく買って、なんとなく再生したら、もう立ち上がっちゃってオーディオの前から離れられなくなったんです。

──考えてみたら、過去のスカートの作品で、これほど明確に「~っぽい」みたいなテーマを設定したこと、ないですよね?

澤部 ないんですよ。なにかに影響受けて物を作ってはいるんですけど、結局ぜんぜん違うものができる。たたずまいとして、これっていうものを設定したのは初めてでしたね。

──それは、変化なんですかね?

澤部 だと思います。いいのか悪いのかはまだわからないですけど(笑)

──でも、アルバムとしての『CALL』の風通しのよさって、今澤部くんが言ってたような「完璧なポップスを作らなくちゃ」というところから、ちょっと解放されたという意識にもひとつ理由があるのかもしれないですね。

澤部 そうですね。ちょっと解放された感じはありました。やっぱり以前は自分に対して課してるものがすごく多かったと思います。特に2014年に『サイダーの庭』を出すあたりまでって、完全に「自分が自分を試してる」みたいな感じだったんですよ。そこをちょっと抜けて、12インチの『シリウス』に向かう曲が何曲かできてきて、『シリウス』以降もわりといい感じで曲ができて、すこし肩の力が抜けてったのかなと。あと、それは「カクバリズムでやる」ってことが決まったっていうのも大きかったと思うんですよね(笑)

──そこ、ぶっちゃけますか(笑)。でも、確かに『CALL』にたどり着くにあたっては、カクバリズムで最初に出した12インチの『シリウス』があって、そこがひとつの中継点にはなってると思います。具体的に、アルバム制作としてのスタートラインになった曲は?

澤部 それはやっぱり「CALL」ですね。これができてようやく「あー、次のアルバムが作れる!」って思えた感じでした。「これを表題曲ないしシングルにしたい」ってことは社長にも言ってました。

──「CALL」は、スカートの曲としては異例なくらい音数が少ないシンプルな曲なんですけど、繰り返し聴くうちに、どんどん印象が重層的になっていく不思議な魅力の曲なんですよ。サビで爆発して盛り上がるという構成でもないのに、すごく残るものになっている。その理由はなにかと考えたら、もしかしたら歌詞なのかなと。

澤部 そうですね。この曲は歌詞をがんばりました。

──今のスカートは、いろんな先輩や仲間とのつながりもできて、ゆたかな音楽活動ができてる状態ですけど、やっぱりその基本に「なにかをなくすだろう」という感覚が表現のキーポイントにあって。それがすごく美しいかたちで表されている曲なんだなと思いました。

澤部 そうですね。「さびしい」とかね、「せつない」とかね。でも、なんだかんだいってプライベートでめちゃくちゃ調子がいいときでも、こういう歌詞はできるんですよ。漫画とか映画とかでそういうので積み重ねられた思考回路もあるというか。

──それが澤部くんの作家性なんですよね。

澤部 そうなんですかね? 自分がなにをやってるのか自分でも今いちわからないので、その今いちわからないものに沿っていくしかないという部分があります。でも、それは『CALL』まで、だったのかなっていう意識の変化もあって。

──「『CALL』まで」って言えるってことは、その先にあるものがなんとなく見えていたりする?

澤部 なんか手応えだけはあるんです。こんなこと言っておいて、次がまたいつも通りのアルバムだったら、すいません!(笑)。でも、なんか憑き物が落ちた気はしてるんですよね。

──憑き物!

澤部 なんでしょうね? なんとなく一周したのかなって感じはあるんです。スカートと名乗り始めて今年で10年なんで。そこで元に戻るのか、新しいスタートを切るのかはまだわからないですけど。

──そういう意味でいうと、次への兆しが自分のなかでは見えている曲がアルバムのなかにもある?

澤部 自分のなかでの新しいムードの萌芽として、それが見えているのは「CALL」です。やっぱり、あの曲が大きいです。今まであんまりやったことがない方法でできた曲だし。

──その方法とは?

澤部 単純に音数が少ないとか、普段だったらコードをしっかり考えてそこにメロディをしっかり乗せるんだけど、それをAメロでは放棄して素直にしてみるとか、ですね。まあ、そう言いつつも、Bメロのコードとかはすごく変なんですけど、やっぱり全体の音数は増えないように抑えてるし。あの曲に関しては、最小限のところから、ちょっとずつ要素を積んでる感じなんですよ。

──逆にいうと、今まではもっと音数を求めたり、変わったコードで埋め尽くしてみたかったりしていたかも。

澤部 そうですね。最初から最後まで全部の弦鳴らしてベタ塗りした、みたいにするのも好きなんですけど、この曲ではそういうのは控えようという意識になっていたんでしょうね。

──それは、スカートの楽曲を語るうえでよく言われる“ひねり”をちょっと抑えてみたかった、みたいな意識だったんですか?

澤部 とはいえ、めちゃくちゃひねってるところはすごくひねってるんですよ。「ストーリーテラーになりたい」とかは実はすごく変な曲だし、「想い(はどうだろうか)」も結構変です。自分でもその度合いはよくわからないんですけど、むしろひねくれ度は増してる部分もあるんですよ、自分のなかでは!(笑)。「一筋縄では行かさないぞ」みたいな気持ちは絶対にどの曲にもあるんですよ。「アンダーカレント」なんか無茶苦茶やってますからね。

──なんだろう、その感じは?(笑) むしろ「ひねらないぞ」と思うことが自分にとっての最大のひねりであるような? でも、いろいろなバラエティや緩急はあるけど、結果、アルバムとしては、サウンド的な質感もそうだけど、今までのスカートの作品のなかでは一番統一感がありますよね。質感の統一という意味では、バンド・サウンドで一気に録ったミニ・アルバム『ストーリー』にも近い、アルバムとしてのまとまった時間と空間があるというか。

澤部 今回、「自分で予算を気にしないで作れるのは、こんなに素晴らしいのか!」って思いました(笑)。昔の作品はどうしてもうまくいかない部分がありましたからね。今回のアルバムはいろんな種類の曲があるけど、ひとつのムードに寄ってアルバムができていると思うんです。『ストーリー』の時みたいに勢い重視で録音したわけじゃないのにそのムードが出せたことがうれしくて「ようやくはじめてアルバムが作れた!」っていう感じが自分でもするんですよ。

後編

澤部渡提供の小さいころの写真

──(澤部渡提供の小さいころの写真を見ながら)澤部くんといえば、音楽的な目覚めは光GENJIだったっていう話をよくしてますよね。

澤部 そうですね。記憶があると同時に光GENJIはそばにあった感じです。幼稚園のころから、ほかにもいろんな音楽は聴いてましたね。

──楽器を習ったりはしてました?

澤部 エレクトーンをやってたんですよ。それが自分にとっては結構大きかったってことに、こないだ気がついたんです。トーベヤンソン・ニューヨーク(漫画家の西村ツチカ、デザイナー/ジオラマブックス主宰の森敬太らのバンドに澤部渡はドラマーとして参加)のリハーサルでスタジオに入ったときに、ベースのもちろんくんが「小さいころにエレクトーンやってる人は音の聴き方が違うよ」って言ってたんですよ。なぜかというと、エレクトーンって、右手がメロディ、左手が伴奏、足でベースで、それを聴き分ける耳が育つっていう話で。その説を聞いたときに「そうか、譜面は読めるようにならなかったけど、小さいころに僕がエレクトーンやってたのってすごく大きな意味があったんだな」って気づいたんです。たしかに、十数年ぶりに聴いた曲とかでもベースラインを全部覚えてたりするんです。

──それがエレクトーンの影響だったとは。でも、物心つく前に触った楽器によって音楽的感性が備わっていくというのはあるでしょうね。

澤部 音がちゃんとレイヤーで分かれて聴ける耳になったんだろうなって思います。

──澤部くんとキーボードってあまりイメージがなかったんですけど、キーボードでも曲作りはするんですか?

澤部 「シリウス」はキーボードで作ってますね。「ストーリーテラーになりたい」もギターとキーボード半々ですね。メロディとベースの関係で作っちゃうんですけどね。いわゆる普通にピアノ弾いて「ラララララ~」とかではなく、もっと稚拙なやり方です。

──そういえば、最近のスカートを聴いててソウルっぽさを感じる曲がちょこちょこ出てきてるんですよね。『CALL』だと「暗礁」とか、ストリングスのかっこいい「回想」とか。ちょっと前だと「都市の呪文」とかもそうで。

澤部 ずっと強がってブラック・ミュージックも聴いてるふりしてたんですけど、ぜんぜん聴いてないってことがわかって(笑)

──「強がって」って(笑)

澤部 でも、スティーヴィー・ワンダーとプリンスはすごく好きなんですよ。あのふたりはブラック・ミュージックなんだけど、それ以上にポップじゃないですか。そういう部分に惹かれてたんだろうなって思います。スティーヴィーは、本当に子どものころから好きでしたね。それこそ幼稚園くらいから。

──本当に?

澤部 たしか91年だったと思うんですけど、NTTかどこかのCMで「ムーミン」のアニメーションが映ってて、音楽がスティーヴィーの「心の愛(I Just Called To Say I Love You)」だったんですよ。その曲がとにかくいいと思って「これが聴きたい!」って母親にねだったんです。

──91年って、澤部くん、まだ4歳!

澤部 はい。でも、そしたら母親が『ホッター・ザン・ジュライ』(1980年)を買ってきちゃったんです。

──「心の愛」は入ってない(笑)

澤部 あとあとになって「心の愛」の入ってる『ウーマン・イン・レッド』(1984年)もちゃんと買ってもらったんですけど、しばらくはずっと『ホッター・ザン・ジュライ』を聴いてました。おばあちゃんにもベスト盤の『ミュージックエイリアム』買ってもらって。

──澤部くんの思春期前の音楽体験っていうと光GENJIだけじゃなく、スティーヴィーが結構色濃くあったんですね。光GENJIとスティーヴィーで育まれた幼稚園児(笑)

澤部 でも、その時点ではスティーヴィーの『キー・オブ・ライフ』(1976年)の良さはわかんなかったんですよ。それがわからなくて、他のスティーヴィーを進んで掘る気がなくなっちゃったんです。「もしあのときあのアルバムの良さがわかっちゃってたら、今ごろどうなっちゃってたんだろう?」って思いますけどね(笑)

──まあ、4歳とか5歳だとわかんなくて普通だと思いますけど(笑)。でも、理解できてたら、より宅録する人になってたかもしれませんね。そういえば、スティーヴィーのシンセの音色って、エレクトーンともつながりますよね。

澤部 ベースもシンセですしね。あのシンセベースが本当に好きなんですよ。あと、プリンスは母親が聴いてた影響です。アルバムだと『LOVESEXY』(1988年)とか。「気持ちわるいな」と思いながらも聴いてました。

──やがて曲作りをはじめるようになってからも、しばらくそういう影響はなかなか目覚めなかったんですね。

澤部 単純におそれ多すぎて無理だっていうことだったんでしょうけど、影響がモロに出たみたいなことをやりたくないって気持ちもずっとあったんだと思います。それで、曲にするときもどこかを歪めてアウトプットしてしまったりしてたんだと思うんですけど、それが今回の『CALL』でようやく終わった気がするというか。「もうちょっと素直に音楽を作る時期が来たのかな? このアルバムを作ったことによってスカートにそういう季節が来るのかもしれない」とか、そういうふうに思えたんですよ!

──渋谷O-Nestで今年の1月7日にワンマンをやったじゃないですか。あのとき、終盤に『エス・オー・エス』から「ハル」をやりましたよね。あのとき「大好きな漫画『イエスタデイをうたって』(冬目景)の長い連載が終わって」っていうことをMCで言っていて。その主人公である女の子の名前が曲名でもある「ハル」なんですけど、それを言い終えたうえでの惜別みたいなムードで澤部くんが「ハル」を歌い出したときに、「長いハルが終わって、新しい春がはじまる」って自然に思えたんですよ。

澤部 ひとつの季節の変わり目なのかもしれないと自分でも思ったんだろうし、そうあってほしいなと思ってます。

──しかも、アンコールではSMAPの「Fly」をカヴァーしたじゃないですか? あの曲の歌詞も象徴的に思えたんですよね。

澤部 なにかにとらわれていた自分から飛び立つというような印象的な歌詞もありますからね。そういうムードが自分のなかに多少でもあるのはたしかです。

──アルバム『CALL』には、これまでやってきたことの集大成であるという意味もあるだろうし、この先を感じさせる部分もあるし。「ゼロからのスタートという空気を持ったアルバムのような気がします」といみじくも澤部くんもリリース資料には書いてます。

澤部 そういう意味でも「ようやくファースト・アルバムが作れた」という感じが、やっぱりあるんですよ。本当にね。すべてに恵まれてるんですよ、スカートは! メンバーにも、いろんな環境にも。

──あとは売れるだけじゃないですか。

澤部 そうなんです! そこがね!(笑)

──でも「売れたい!」って、澤部くんが堂々と言っていい作品だと思います。

澤部 ずっとそう言いたい気持ちに対して、自分が置いてきぼりになってたんですけど、それがようやく追いついた気がするんです。

──ちゃんと歌を中心に置いて「自分を見てください」ってアルバムを作った。それがスタートラインだって感じがするんだと思います。とはいえ、ここに至るまで毎年のようにアルバム、ミニ・アルバムとリリースしてきたアルバムは、どれも捨て置けない重要作品ばかりですよ。

澤部 もしかしたら、アルバムを作るというのが自分のなかでの社会性なのかなという気もしてますね。なにぶんアウトローなもので(笑)

──アウトローと言いつつも、カクバリズム以前の『サイダーの庭』までは、ぜんぶ自分で管理してやってきてたわけだし、セルフコントロールはかなりちゃんとしてたんじゃないですか?

澤部 いや、結局あれもあとからついてきた話なんですよ。自分でも、まさかどのアルバムもあそこまでちゃんと売れると思ってなかったんで。

──もっとスモール・ビジネスと考えていた?

澤部 そうですね。

──そういう意味では、『ストーリー』が思ったよりもたくさん売れたっていうのは大きかったんですね。

澤部 ターニング・ポイントというか、あそこでひとつなにかが変わった気がします。

──当時、「初回1000枚作りました! 売れますかね?」って、当時なかば不安そうに言われたのを覚えてますよ。でも、それがすぐに完売して、また1000枚ずつ再プレスしていって、その都度、見富(拓哉)さんのアートワークにも、物が一点ずつ加えられていくという遊びができた。こっちからオファーしてないのにボランティアでアニメMV「スウィッチ」を作って公開して、今やスカートのオフィシャルMVを手がけるようになったqueさんみたいな存在の登場にも、そういうおもしろさを感じます。そういう意味では、周りに切り開かれ、自分でも切り開き、と、みんなが「スカート、いいな」と思うようなことをやってきたと思いますよ。

澤部 でも、自分からなにかを仕掛けたつもりはまるでないんです。ビジネスとしては落第ですよ(笑)

──でも、そこがいいんじゃないですか? 自分にとっての「これで売れる!」って確信にならないままよい曲を作り続けてきた。だからこそ音楽からはかなさやもろさが失われないまま強くなれたんだろうし。『ストーリー』の段階で「おれはこれだ!」って確信を下手につかんじゃってたら、あれが最高傑作で終わる人になっちゃってたかもしれないし。ライヴでも結局『ストーリー』からの曲しか盛り上がんないとか。そうはならなかったですもんね。

澤部 そうですね。それはありがたかったですね。こないだ『CALL』が出るって発表した直後のライヴで、いままでずっと演奏し続けてきた「ストーリー」をあえてやらなかったんですよ。

──それ、僕も行ってました。下北沢のTHREE(2016年2月29日)でしたね。全曲『CALL』に入る新曲だけでやった、すごくいいライヴでした。

澤部 新曲だけで、ぜんぜん成立したんですよ。あれで手応えがまたあった感じがしました。

──もはや「ストーリー」こそがスカートっていうんじゃなく、もっと大きな括りで、澤部くんの作家性がスカートとして成立してるんだと思いますよ。

澤部 不思議な感覚ではありますね。ひとつ思うのは、つくづく僕はシンガー・ソングライターなんだろうなと。依頼をいただいてだれかに曲を書くこともありますけど、やっぱりうまく書けない。「相手が100%求めてるものにはなってないんだろうな」って気持ちはありますね。

──どうしても自分が出ちゃう?

澤部 「こういうものを作ろう」と思って作りはじめても、結局脱線しちゃうというか。

──世の中的には、器用な人と思われてるじゃないですか。多作だし、楽器もいろいろやるし。

澤部 ねえ。でもぜんぜんそうじゃないんです(笑)

──でも、スカートを続けている最大の理由は、そういうところですよね。

澤部 そういうことなんですよね。

──話は少し変わりますけど、今回の『CALL』も、イラストレーター/アニメ作家の久野遥子さんがイラストを描き下ろしたジャケットで素晴らしいですよね。一度聞いてみたかったんですけど、ミュージシャンと漫画家/イラストレーターって、だいたい名コンビみたいな感じになっておなじ組み合わせで続けるパターンって多いじゃないですか。澤部くんが漫画家さんの友人が多いこともあるんだろうけど、スカートが常にジャケットを描く人を変えているっていうのは、やっぱり意図があるんですか?

澤部 はっぴいえんどのファースト(林静一)とセカンド(宮谷一彦)でジャケットを描いてる人が違うからっていう、それだけだと思いますよ(笑)。あがた森魚さんの林静一(『赤色エレジー』)と鈴木翁二(『日本少年』『永遠の遠国』)とかね。

──たしかにきっかけとしてならそれはわかるんですけど、決まったコンビで連続はしないっていう気持ちには、もっと意図があるのかなって思えるんです。描いてる漫画家さんも同年代の友人だけじゃなく、森雅之さん(『ひみつ』)のように面識はないけど憧れていた人もいる。それに、いつも音楽とジャケットに勝負してる感があるじゃないですか。

澤部 ありますね。

──作品対作品で対峙することで、あいさつや会話を超えた関係になれてるというか。「この人だったらわかってくれるはず」みたいな甘えじゃなくて、ちゃんと相手に解釈させる部分があるし。

澤部 そうですね。それも含めて、できあがった音に対しての僕自身で責任を取るという感じもあるのかもなと。あと、ジャケットってやっぱりひとつの窓じゃないですか。それをその時代によって変えるのは当然なのかなという感じなんです。だから、もともとだれかひとりの人とずっとやっていくとう気はなぜか最初からなかったんですよ。

──それこそ『エス・オー・エス』が一版、二版、三版とジャケットがまったく違ったり、さっきも言ったように『ストーリー』のジャケで物が増えたり、『ひみつ』のCDとあとから出たアナログでは違うイラストだったり。そういうのもすべてちゃんと意味があって。

澤部 なにかを更新したくなっちゃうんでしょうね。

──おなじアルバムを聴き続けていても、時間が過ぎたり、生活が変わったりして、得たり失ったりするものがある。人はいつまでもおなじようではないという気持ちが最初からなんとなく備わっているのかも。

澤部 そうですね。それに、いろんな解釈が自分の音楽にはあるはずだという気持ちはありましたよ。

──たぶん、澤部くんには、完璧なポップソングはその発表されたリアルタイムに封じ込められてしまうべきじゃないという思いがあるんじゃないですか? 自分もそうやって知らない時代の音楽を摂取してきたんだし。時間や時代によって変わっていくからこそポップソングだというか。

澤部 世につれ人につれとい言いますかね。

──そういう意味でも、今年でスカートと名乗って10年やってきたっていう一周した感はあるんですか?

澤部 長いんだか、あっという間なんだか、な感じですけどね。曲が書けて、ある程度手応えがあるうちに出しておこうという感じで続けてきた10年でした。でも、今回のアルバムには過去の曲も入れようという案も最初のうち自分ではあったんです。なんなら20歳くらいで書いた「魔女」って曲とか、コミティアで売っていたデモCD-Rに入れてた曲とかもリストアップして。だから、最初のリストには16曲くらいあったんです。でも、そういうなかで「CALL」とか「ひびよひばりよ」って曲が新しくできたときに、「次のアルバム、新曲だけでも成立する!」って思えたんです。

──「ひびよひばりよ」すごく好きな曲です。

澤部 僕も気に入ってます。あれができたのが大きかったんですよ。「ひびよひばりよ」は、ひさしぶりに手応えがありました。僕は曲書いて手応えあると爆笑しちゃうんですけど、この曲でひさしぶりにそれが出ました(笑)。でも、「今回は素直にできた」ってさんざん言ってるのに、あれがアルバムのなかでは、ひねくれてるモードの一番なんですけど(笑)

──でも、コード進行とかメロディとかは変わってても、変なままずんずん前に進んでいくじゃないですか。スカートって、そこですよね。変なことやりたがる人って、その変なところを強調して「どうですか? 変ですよね?」って見せたがる。スカートは一貫してそれがないんですよ。

澤部 そうですね。ちゃんと必要なことやってるというか、「変なことしよう」と思ってそうしたんじゃなくて、自然と出てくる感じがあるんです。

──それにしても、これほど未発表のストックを持ってるミュージシャンも、この世代ではいないと思いますけど。

澤部 そうなんですかね?

──いや、そうでしょ? 『シリウス』のレコ発ライヴをWWW(2014年11月12日)でやったあとで、ミュージックオルグでレコ発の日にやらなかった曲だけで“裏ワンマン”(2014年12月28日)をやったり。あの2日で、60曲近くやってますよね。それこそ2011年に阿佐ヶ谷Rojiでやったワンマンでは、5年前のあの時点で40曲以上やったわけでしょ?

澤部 そう言われれば、たしかに曲は多いかもしれませんね。

──最近は曲はどうやってできるんですか?

澤部 最近は断片ですね。「CALL」も断片を膨らませた曲ですし、「いい夜」も最初の断片だけできて、しばらく悩んでかたちにしていったんですよ。曲の作り方は変わってきてますね。

──昔はもっと一筆書きみたいな感じで?

澤部 そうです。一回筆が走ったら、もうできあがるまで止まんない、みたいなタイプだったんですけど、最近は寝かせたり、止まったり、集中力を入れ直したりしながら作ることが多いですね。今回、集中を切らさずに一気にできたのは「ワルツがきこえる」くらいですよ。これはガーッとできました。

──「集中力が途切れる」って、物作りをする人としてはあまりいい言葉じゃないかもしれないけど、別の言い方をすれば「時間のかけ方が変わってきた」とも取れるんじゃないですか? ひとつの作品をいろんな角度から見てじっくり作るようになってきたというか。

澤部 寝かせられるようになってきたのかもしれません。勢いで曲を書かなくても大丈夫ってことがわかってきたんでしょうね。昔は「こういうインスピレーションが降りてくるのは一回しかない」って言い聞かせて、はじめから終わりまで一気に書いてましたけど、そういうわけでもないって気がついてきたというか。「一筆書きだろうが、何回も分けて書こうが、いいものはいい」って気持ちにようやくなってきたんです。

──それはやっぱり、プロとしての自分を意識してきたってことなんじゃないですか?

澤部 そうなんですかね(笑)。プロとはまだ言い切れないですよ! 自分が思い描くプロとはほど遠いというか、「期待に応えてこそプロ!」だって思うので。今はまだ一番のクライアントが自分なんで、そういう状況を脱してから、はじめてプロなんだろうなっていう気はします。

──でも、自分に対するプロ意識は高いでしょ?

澤部 うーん。ソングライターとしての自分は満足してるんですけどね。「こういう曲が書きたい」ってクライアントの自分が思ったとしても、ソングライターとしての自分からは、クライアントとしての自分が思ってもいないものがあがってくるんで、それをよしとするのかしないのか? そこの在り方が揺れずにちゃんとするのがプロなのかなって思ったりはしますね。

──でもその逡巡のなかにあるのがスカートがスカートたるゆえんだったりしますからね。そういう意味でもこの10年は誠実に自分に対して悩んできた歴史ですよ。はたからは作品は順調にリリースしてるように見えるだろうけど、誠実な迷い方も歩み方もしてますよね。

澤部 そうですね。いろいろやってきた気はしますね。自分に対してすごく厳しい気もするし、究極に甘えてる気もするし(笑)

──でも、自分を自分として認めるという根本の態度は一貫してて。

澤部 その態度は大事だと思ってます。

──わるくとらないでほしいんですけど、「人前に立つミュージシャンなんだから、もう少し減量しよう」とか、どこかで思ってもよかったはずじゃないですか。

澤部 そうですよね。そこは甘えの部分なんですよ(笑)

──(爆笑)

澤部 「曲がよければいいでしょ?」みたいな(笑)。でもじっさい、見た目で敬遠する人もいるだろうなって気はします。

──最初のころはそういう危惧を口にする人もいたけど、今は「あんまり関係なかったんだな」って実感のほうが強いです。

澤部 そうだといいんですけどね。これもいいのかわるいのかわからないんですけど、自分の曲に自信があるのが僕はダメなんだと思います(笑)。

──えー?

澤部 いや、曲に自信があるから、やせないんだと思います!(笑)

──あ、そっちの意味!(笑)

澤部 だから、僕が急にやせたりしたら、曲に自信がなくなったときかもしれないです(笑)

──ぜひ、11年目からのスカートもやせずに続けてください!

スカート